2010/06/07

房総ってどうよ?

「房総ってどうよ?」
ある日1号が言った。

「は?」
「何?房総って。」

「千葉の房総だよ。」

「どうもこうも知らないもの。」

「外房あたりが良いらしいよ。」

「良いって何が?」

、、、とこのようなやり取りから全ては始まった。


「房総」が出てきたのは全く突然だったが、何となく、予感はあった。

我社(我が家)の住環境と言えば、ずっと恵比寿、代官山、広尾、中目黒(祐天寺)辺りで、
仕事の打ち合わせをはじめ、暮らすにもどこかへ行くにも大変便利な環境であり、とても気に入っていた。

、、、が、ここ1、2年、それとは違うもっと自然が身近にある場所に住みたいと漠然と話しており、
休みがあると部長を伴い渓流など自然豊かな所へと出掛けて、その度にその思いを深めていたのだ。

それ以前から、1号はいずれは「バリ」に住みたいと言っており、その「いずれ」はずっと遠い話だと思って呑気に聞いていた。
そして、実際、その「バリ」ではなく、「房総」が急浮上したのだ。

この時点で、なぜ「房総」が良さそうかワタシを説得するに足る明確な理由はなく、「何となく、、、」らしい。

「何だそれ?」
まあ、勘とでも言うのか、何とも1号らしい。

それでも、何も知らずに否定するのもつまらない。
「じゃ、行ってみますか?」という事で「房総」へドライブ。

まず、到着する前に道中のあまりの僻地ぶりに既に凹む。
「こんな所に住むのー???」
あー、先が思いやられる。

お、海だ。海が見えてくると少し萎えた心が救われる。

ネットで調べた面白そうな所に立ち寄りつつ、色々と考える。
可愛らしい女の子が移住して山の中でお店を開いていたり、洒落たパン屋さんを営む人など、、、。
色んな所に色んな人がいるもんだと、感心する。
そういう人達の話を聞くと羨ましいような気もするけど、正直あまりの環境の差に暮らすとなると不安だらけだ。

遊びで来るのと暮らすのとでは大きく見方が違うのだ。
東京にいると自然は体験するものであって、生活の一部ではない。
だからこそ、憧れるのだ。
それが暮らしの一部になったなら、今度は東京での便利な暮らしを求めるのではないだろうか?
単なる「無いものねだり」じゃないのか??
本当に暮らしたいのか?暮らしていけるのか?

グルグルグルグル。頭の中で自問自答する。

帰ってからも話し合う。
まだまだ、結論は出ない。

そんな中、常にサイトをチェックしていた東京R不動産で「房総トライアルステイ」なるものを募集していた。
移住・二地域居住をしてみたい人を対象に「いすみ市まちづくり協議会」が行う
「房総に1ヶ月住んでみよう」というプロジェクトらしい。

まあ、今の我等にピッタリ。
だって、頭で色々考えても、観光気分で行ってみても、実際住んでみないと良いも悪いもわからないからだ。

で、早速、応募、、、>当選!!(笑)

何でも当たるとテンションは上がり、単純な我等はこれも何かの縁だとか言って、不安よりも期待が膨らむ。


そして、いざ外房へ!!
いすみ市のプロジェクトだというのに、我等が住む事になったのはいすみ市内ではなく勝浦の奥の里山だった。
ま、美しい里山の可愛いお家だったので、気にしない気にしない。
それが、先に書いた「房総便り」となったのであった。

そこでも書いているが、毎日お天気であればさえ、この上なく穏やかで幸せな気持ちなる生活は新鮮だった。
確かにお買い物などの生活を考えると今までのようにはいかない。
ちなみに気に入ったスーパーには片道30分はかかる。
ただ、スーパーに置いてあるお野菜やお魚はピカピカしていてとても安い。
詳しい事はその「房総便り」を見てもらうとして、ここで過ごした1ヶ月の間、またまた色々考え、話し合った。
美しい里山暮らしは素晴らしいが、東京に帰ってくるとピカピカの家のクリーンで便利な所も手放しがたく思えた。
友人達とも離れがたい。
イベントなどで顔を合わせる刺激的な面々とも会えなくなるのは寂しい。
それらは結構大きな問題だ。

くーーーーーっ、どーする、イラテック!


いくら話し合っても迷いは消えなかったが、それでもあの空の広さや星の美しさ、緑の匂いなどは忘れられなかった。
もう、こうなったら、行くしかない。
とりあえず、賃貸を借り、そこに住みながら気に入った場所を探そうという事になった。
(この間、約1ヶ月。あっという間の決断だった。)
この決断には祐天寺の本社売却も含まれているので、普通の人ならもっと慎重にするのだろうけど、、、。

早速、ダダーーーッとネットで条件に合う賃貸物件を調べ、不動産屋さんに連絡をして、房総へと向かった。

最初に見た物件は家自体はそこそこなのだが、とにかく、長い間空いていたようで随分と荒れていた。
しかも、モスラのような得体の知れない生物が数ケ所に、、、。
ぎゃーーーーー。
案内をしてくれたのは房総一可愛い不動産屋さんと言っても過言ではないくらい美人さんの女の子だったのだが、
残念ながら、モスラは勘弁だ。

その後、他の不動産屋さんの紹介する物件も見たが、うーーん、どれもイメージが違う。

先にトライアルステイした里山物件は住むには狭く外房の中でも特に不便な場所ではあったが、
それら以外の家の周辺の風景などはパーフェクトに近かった。

それに比べて、今回見た物件は単なる住宅地の一角に建つ、庭も無いような至って普通の家ばかりなのだ。
これじゃあ、房総でわざわざ暮らす意味が無い。
その上、部長カノン号も一緒なので、ペット可の物件は極端に数が少ない。
一気にテンションが下がる。

気に入った場所を探す間の仮住まいとは言え、仕事も家でする我等にとっては住環境は重要である。
このまま、肩を落として帰る気にはならず、飛び込みで他の不動産屋さんに行ってみる事にした。

しかし、この時すでに午後3時。
ダメ元で、一宮の海岸通りで目に付いた不動産屋さんに飛び込んでみた。
しかし、やはりペット可で我等の求める広さの物件はない、、、とのお返事。

そこは、店内にチェーンソー彫刻だらけの不思議な不動産屋さんで、
興味本位で聞いてみるとその会社の「会長」さんのコレクションとの事。
(この時は、後にこの会長さんとご縁があるとは全く予想だにしていなかったのだった、、、)

世間話をしているヒマもないので、そのまま帰ろうとしたら
「ウチの駅前店に行ってみたら?そっちの方が賃貸物件があるかも、、。」と場所を教えてくれた。

急いで一宮駅前にある駅前店に向い、同じように聞いてみた。
優しそうな女性が何軒か問い合せをしてくれたが、やはりペットがいると難しいらしい、、、。
初めての物件探しで、すぐに気に入った物件が見つかるわけもないとわかってはいても、やはり落ち込む。

もう、他をまわる時間もなく、肩を落としている我等に親切にお茶を出してくれた。
ワタシがこの辺りの住宅事情など聞いている間、部長は店内を自由に歩きまわり、1号は店内をウロウロ。

、、、とその時、1号が1枚のチラシを手にして「この物件とかってまだあったりするんですか?」と聞いた。

そのチラシを見てみると、家の前には立派な庭があり、その奥にはほとんど平屋の雰囲気のある日本家屋。
裏には竹林、、、とある。
うーーーん、素敵。
場所も端っこながらも一宮で、一宮ならネットは光が来ているはずだ。

え??
でも、これって賃貸じゃなくて、売買物件だ。
あれ???
しばらく賃貸に住んで、その後に定住する場所を吟味するんじゃなかったけ??
でも、可能性がない金額じゃない、、、、。

「このチラシ昨日出来たばっかりなのヨ。ウチの会長が売主さんで。(出た!会長)
確か、すぐ申し込みがあったと聞いてるけど、担当に聞いてみる?」

「はい。お願いします。出来る事なら今後の参考の為にも是非見てみたいので。」

「やっぱり、お申し込みが入っているようだけど、
担当者も今からなら時間がとれるから見るだけでも良いのなら案内しますって。」

やった!!

早速、担当の営業マンMさんの案内で物件へ。

駅前から車で約10分。一宮の端っこにある物件へ向かう。
ドライブでも通った事がない道だ。

国道からちょっと私道を入り、物件が見えてきた。
チラシで見るより素敵だ。

庭や家の中を一通り見せてもらう。
前庭は手入れされ、家の中も所々修復されている。
お庭も広く、竹林は荒れているが、その向こうには田んぼが見える。
室内の広さは何とか条件をクリア、まわり廊下や欄間、床の間、書院窓などが可愛らしい。
しかも、古い家には珍しくお風呂は新しい。
キッチンなどはどんより暗い気はするが、何とかなりそうだ。

部長はすでに庭を走り回っている。

1号の顔を見ると、「これは、、、。」と言ったきり、目がキラキラ。
あ、完全に気に入っている。
目の色が変わるとはこの事だって顔だ。

もう、辺りが薄暗くなっているので、一旦事務所に戻った。

「あの物件、もう可能性がないですか?」

「売主がウチの会長なので、会長に聞いてみないと、、、。
ただ、お申込みがあった方には即答はしていないようです。」

「だったら、可能性はゼロじゃないですよね?」

「ただ、お申込みが入っているので、待てないと思います。」

「明日の午前中にはこちらの意思を決めます。それまで待ってもらえないですか?」

「わかりました。聞いてみます。」

ここでやっと、まだちゃんと名乗ってもいなかった事に気づき、名刺を渡してご挨拶。
「では、明日ご連絡します。」と事務所を出た。

さあ、大変だ!
だって、賃貸って言ってたじゃない、、、から始まり、
予算の事から今後のスケジュール、本当にあの場所で良いのかなどなど、
考えなくちゃいけない事が一晩で山積みだ。
どうしよう?!
それでも、家に着く頃には我ら二人ともこちらから断る気は微塵もなくなっていて、
懸案事項や手順を話し合い、このまま突き進む事にした。
不安が無いと言えば嘘になるが、勢いがついているからもう止められない。


そして翌朝。
「是非、買わせて頂きたいと思います。今日、もう一度、伺います。」とご連絡。

再び、一宮へ向かった。

午後に到着し、再び明るい陽射しの中の物件を見に行った。

昨日お会いしたMさんが我社のwebを見てくれたらしく、
この一見して堅気ではなさそうな我等の仕事を大体把握してくれていた。
(Mさんはweb上で公開している1号のマンガの中では
「地図と記号」が好きだと言う変な人だ。なんとマニアックで素敵な人だろう。)

その後、会長との直接交渉の為、本社へお邪魔した。

Mさんは、売主さんである会長にもざっとどんな人間が買おうとしているのかを説明してくれていた。
普通なら、固いお仕事をしている人達を優先しそうなものだが、この会長は違った。
そういう人達に比べ、何だか苦労してそうな我等に対する優しい同情心からなのか、
はたまた変わった仕事をしている我等を面白がってくれているのか、、、。
どちらにせよ、こんな我等になぜか好意的に接してくれて、有難かった。
この時、会長とは初対面だったのだが、とてもチャーミングで、
1号ともどもすぐにこの魅力的な人物を好きになった。
尊敬する恩師(音楽の先生)の家だったあの家に、
とても深い愛情と責任を感じている事が話の端々から感じられた。

ここで正式に会長に「是非、買わせて頂きたいのですが、、、。」と、直接お願いした。

そして、「わかりました。こちらこそ、よろしくお願いします。」と快諾してくれたのだった。


あー、決まっちゃった。
初めて、賃貸物件を探しに来て、その翌日の事だった。

勿論嬉しいのだけど、まだ、本社も売れてないというのに、、、。

ま、そんな事、後で考えりゃあいいか。
とりあえす、今日は素直に喜ぼう。

こうして「イラテック一宮」は誕生した。
2010年1月の事だった。